コラム
医療事務の仕事内容|医療秘書との違いや就職が有利になる資格も解説
医療機関などにおいてさまざまなサポート業務を行う医療事務は、医療現場に欠かせない職業の1つであり、高齢化社会の進行にしたがって需要も高まっています。求人数も多いことから、医療事務を目指している方も多いでしょう。
当記事では、医療事務の仕事内容や勤務先、給料相場について解説します。医療事務になるための方法や資格の有無、取得しておくと有利な資格の種類も併せて確認し、医療事務の仕事が自分に合っているかどうかチェックしましょう。
医療事務・医療秘書を目指すなら!
1.医療事務とは?
医療事務とは、医療機関(病院や診療所・クリニックなど)で患者の受付や会計、診療報酬請求といった業務を主に行う職業であり、医療機関には欠かせない存在です。
医療事務は、医師や看護師のように、患者に直接医療行為や看護ケアを行うわけではありません。しかし、65歳以上人口が総人口に占める割合(高齢化率)が29.0%と高まり、医療ニーズが増える中、患者対応にあたる医療事務の需要も一層高まると考えられます。
1-1.医療事務と医療秘書の違い
医療事務とよく似た名称の職業の1つに、「医療秘書」という仕事がありますが、業務内容に違いがあります。
医療事務は病院やクリニックなどの医療機関で、患者の受付や会計といった窓口業務、診療報酬の計算・レセプト(明細書)作成などを主に行います。
同様に、医療秘書の主な勤務先も医療機関です。ただし、医療事務が担う患者対応の業務に加えて、医療秘書は情報管理業務や秘書業務など、医師や看護師などをサポートする業務も担当します。
医療秘書の仕事は医療事務の仕事よりも、業務範囲がやや広いのが特徴です。ただし、職場によっては、医療事務が秘書的な役割を担っていることもあります。就職や転職の際には、求人情報や面接などで業務内容をきちんと確認しておくことが重要です。
医療事務・医療秘書を目指すなら!
2.医療事務の主な仕事内容
医療事務は患者の個人情報や会計情報など、重要かつ大量の情報を管理します。そのため、患者に関する資料を紛失したり他の資料と混ぜたりしないよう、書類を几帳面に整頓しながら仕事を進められる方に向いている職業と言えます。
また、医療事務は患者対応を行う仕事であるため、さまざまな業務を早く正確に行うことも重要です。仕事を迅速かつ正確に処理できる能力があれば、大量のレセプト作成業務も効率よく行えるでしょう。
医療事務は几帳面かつ迅速で、確実な処理能力がある方に向いていると言われています。しかし、具体的な仕事内容を把握した上で、医療事務を目指すかどうか決めたい方もいるでしょう。
以下では、医療事務の主な仕事内容について紹介します。具体的な仕事内容を確認し、向き・不向きを判断する際の参考にしてください。
2-1.受付・会計業務
医療事務の主な仕事の1つは、医療機関の外来診療に訪れた患者の受付業務です。予約の確認や問診票などによる簡単な聞き取りを行い、診察券や保険証を受け取ってカルテなどとともに管理します。初診の場合はカルテ管理に加えて、保険証などの情報からカルテ作成も行います。
診察室への呼び出しや受診する診療科への案内、次回の診療予約なども受付業務の一環です。電話応対や待合スペース・待合室の管理・清掃などを任される場合もあります。
患者の診察後に行われる医療費の会計業務も、医療事務の仕事の1つです。患者が受けた医療情報をコンピュータに入力し、患者に請求する金額を算出して患者に提示します。会計終了後には保険証や診察券などを返却し、領収書や処方箋を渡すことで、その患者の会計業務は終了となります。
2-2.レセプト作成業務
レセプト作成業務(診療報酬請求業務)は、医療事務が行う業務の中でも重要な仕事の1つです。「レセプト」とは「診療報酬明細書」のことであり、患者が加入している健康保険組合などの審査支払機関に請求する、医療費(診療費)の明細書を指します。
医療事務は、カルテの情報などから診療報酬点数を計算し、レセプトの作成・点検・医師の確認から、健康保険の審査支払機関に提出するまでの一連の手続きを行います。当月分のレセプトは翌月10日までに作成して請求する必要があるため、レセプト作成作業を行う時期はいつもより忙しくなることが予想されます。
2-3.クラーク業務
入院施設のある規模の大きな病院では、入退院時に必要な書類の受け渡しや入院費などの説明、病院内の利用案内などの病棟クラークの業務を、医療事務が担うケースもあります。病棟クラーク業務は入院予定患者や入院患者への対応がメインとなるため、病棟のナースステーションを拠点として業務を行うことが一般的です。
クラーク業務は、入院予定・入院中の患者の不安を減らすためにも、入院費などの支払い方法や支払い期限、差額のベッド代といった費用面の説明を丁寧に行うことが重要となります。高額療養費制度など、医療費が高額になった場合に利用できる保険制度などもきちんと把握し、患者が安心して治療できるように深い知識を蓄える必要があるでしょう。
3.医療事務の主な勤務先
医療事務の主な勤務先として、病院やクリニックを思い浮かべる方が多く見られますが、医療事務スキルを持つ方が活躍できる職場は多様です。医療事務の仕事に興味がある方は、実際に働くイメージを深めるために、それぞれの勤務先の特徴をチェックしておきましょう。
医療事務の主な勤務先を4つ紹介します。
医療事務・医療秘書を目指すなら!
3-1.病院
医療事務の勤務先として認知度が高いのが病院です。病院とは、病床数が20床以上あり入院治療の提供が可能な医療施設を意味します。
病院には診療科が複数あり、1日あたりの患者の数が多いため、医療事務の業務をセクションに分けて担当するケースがほとんどです。病院の規模によってはさまざまな業務に幅広く対応しますが、大きな病院の場合は特定の業務にあたることになります。
人事異動や配置転換によって、対応する業務が変わることもあります。経験を積みながらキャリアアップを目指したい方や、専門性を磨きたい方に人気がある勤務先です。
3-2.クリニック
クリニックは、病院と同様に医療事務の求人が多く見られます。クリニックとは、病床数が19床以下の小規模な医療施設です。診療所と呼ばれることもあります。
クリニックで働く場合、対応する診療科や医療従事者の人数が限られるため、事務仕事やクラーク業務などを幅広くこなす必要があります。経験を積みやすく、他の勤務先でも即戦力として活躍できるでしょう。医療事務の業務全般の経験値を高めたい方やマルチタスクに抵抗がない方に向いている勤務先です。
患者や医療従事者と直接関わる機会が多く、アットホームな職場が多い傾向にあります。
3-3.調剤薬局
調剤薬局は医療事務を必要とする事業所の1つです。医師が発行する処方箋に基づいて医薬品の調剤や販売を行います。
調剤薬局における医療事務の業務は、受付・会計や調剤報酬の算定などが中心です。患者と関わる機会も多いため、社交性や臨機応変な対応力が求められます。調剤薬局の事務に特化した「調剤薬局事務」の資格も取得すると、対応業務の幅が広がります。学習範囲が狭く、比較的取得しやすい資格と言えるでしょう。
医療分業が進んだことで調剤薬局の数は増加傾向が続いており、今後も医療事務や調剤薬局事務は安定した需要が期待できます。
3-4.健康保険組合・医療系企業
健康保険組合や医療系企業も医療事務が求められる分野です。
健康保険組合では、医療費の負担や各種給付金の支給、健康診断の実施など医療に関する業務も行います。医療費や保険関係の知識や経験が求められる仕事です。対応する業務が大きく変わることはほとんどありません。
請求事務代行業や医療事務コンピュータメーカーなどの医療系企業でも、医療事務の知識やスキルを活かせます。レセプション作成やスタッフの指導・育成に特化した勤務先で働くことで、より専門性を高められます。
患者や医療従事者と直接関わる機会は少ないため、裏方として医療を支える仕事と言えるでしょう。
4.医療事務が病院で働く場合の1日の業務の流れ
以下は、病院で働く医療事務の1日の流れの1例です。
8:30~9:00 | 出勤し、午前の受付開始時間前に掃除や環境整備を行う。 |
---|---|
9:00~13:00 | 午前の診療開始時間に合わせて受付を開始し、カルテの準備や電話対応、会計業務を行う。 |
13:00~15:00 | 午前の診療が終わり次第、お昼休みをとる。 |
15:00~19:00 | 午後の診療開始時間に合わせて受付を開始する。午前と同様にカルテの準備や電話対応、会計業務を行う。 |
19:00~19:30 | 診療が終わり次第、会計を締めて院内の掃除を行い、退勤する。 |
出勤後は、制服に着替えて業務開始に向けた準備をします。待合室の掃除や会計レジのお釣りの用意も大切な仕事の1つです。
診療開始時間になったら順番に患者の受付をして、診療が滞りなく進むようにさまざまな業務をこなします。初診の患者がいる場合は、保険証や公費医療受給者証のデータをコンピュータに入力します。基本的に、午前と午後の業務内容が大きく変わることはありません。
午前に受付した患者の診察と会計が終わってからお昼休みに入るため、休診時間通りに休憩がとれるとは限りません。常に窓口が開いている病院の場合は、交替でお昼休みをとります。
最後の患者の会計が終わって清掃が済んだら業務終了です。診療報酬明細書の作成や提出で忙しくなる月末や月初めは、残業となる場合もあります。
医療事務・医療秘書を目指すなら!
5.医療事務の給料相場
医療事務は、患者の対応を行うことで医療現場の運営をサポートする仕事です。診療報酬などに関する深い知識や、患者への丁寧な対応が求められる仕事でもあります。やりがいはあるものの、収入面が気になる方も多いでしょう。
「民間給与実態統計調査」における給与所得者の平均年収と「医療経済実態調査」に基づく医療事務の平均年収は、下記の通りです。
給与所得者の平均年収 | 約458万円 |
---|---|
医療事務の平均年収 | 約270万~約600万円 |
出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」
医療事務職の年収は、勤務先の規模や地域、勤務形態によって大きく変わります。同じ医療事務の仕事でも、クリニックより病院のほうが給料は高くなる傾向にあります。関東圏は年収相場が高く、他の地域より約40万~80万円高い点が特徴です。
6.医療事務として働くやりがいや魅力
医療事務の仕事には、さまざまなやりがいや魅力があります。やりがいを感じながら働けることは、幸福度やパフォーマンスの向上につながります。仕事のやりがいと魅力を知って、医療事務として働くイメージを膨らませましょう。
医療事務として働くやりがいや魅力の中で、特にメリットが大きいものを4つ紹介します。
医療事務・医療秘書を目指すなら!
6-1.医療に関する幅広い知識を得られる
医療事務と一口に言っても、対応する業務内容は多岐にわたります。仕事を通じて保険・医薬品・治療方法など医療に関する幅広い知識を得られることは、自己成長や職場への貢献にもつながるでしょう。
医療事務ならではの知識も増えるため、医療に関わる仕事に就きたいと考えている方にとって魅力的な仕事と言えます。自分や身近な人が診察や治療を受けた場合に、内容を正しく理解することも可能です。
医療は日々進歩しており、医療を取り巻く環境も常に変化します。そのため、医療事務は日々情報のアップデートや自己研鑽が必要です。医療に関する豊富な知識と経験は、転職する場合にも大きな強みになります。
6-2.患者や医療関係者に感謝される
医療事務の仕事は、患者や医療関係者との関わりが多いことが特徴です。
診察までの準備や医療費の計算、保険制度の紹介など、医療事務は診療のサポートを行います。関わった患者から直接感謝の言葉をかけられることもあります。誰かの役になっていると実感できることは、仕事の励みになるでしょう。
医療事務は医療従事者のサポートも行うため、医師や看護師にとっても心強い存在です。チームの一員として医療に携われるのは、大きなやりがいと言えます。
6-3.将来性があり安定している
医療事務はチーム医療に欠かせない人材であり、地域を問わず安定して長く働ける点が魅力です。日本では高齢化が進んでいることから、今後も医療機関を受診する患者が増えると予測されており、患者の対応にあたる医療事務の需要も一層高まります。
また、医療事務の仕事は画一化が難しい点も強みです。AIやICTは単純なデータ入力や計算、点検などの負荷を軽減し、過剰な残業の削減に寄与します。しかし、病院のサービス向上や運営・経営・企画などにおいて、各医療事務職が担当する仕事のニーズは高まります。
今後は、診療や指導を医療保険の制度に沿った適切な報酬につなげ、健全な運営をサポートする「アドミニストレーター」として仕事ができる医療事務職が求められるでしょう。
6-4.働き方の選択肢が幅広い
医療事務は、正社員として働く以外に派遣社員・パート・アルバイトなどの雇用形態も選択できます。働き方の選択肢が広いため、ライフスタイルに合わせて無理なく働くことができます。
「子育てや介護をしながら働きたい」「ダブルワークをしたい」など、柔軟な働き方を希望する方にぴったりの仕事です。未経験でも働ける職場が多く、医療関係の仕事に就きたい方にも人気があります。結婚や出産などによるブランクがあっても復帰がスムーズです。
7.医療事務になるための方法
医療事務の仕事には、診療報酬の請求業務など専門知識が必要な業務もあり、関連する資格も多数存在しますが、医療事務になるために必須となる資格はありません。資格や経験がなくても、正社員(正職員)やパートといった希望の雇用形態で採用されることもあり、職場で経験を積み医療事務のスタッフとして大いに活躍することが可能です。
「より有利な条件で就職・転職したい」「医療事務としてのキャリアアップ・スキルアップを図りたい」という方は、医療事務関連の資格取得を目指すことをおすすめします。
7-1.医療事務が取得すると有利な資格
医療事務に関連する資格には、さまざまな民間資格があります。最後は、医療事務として働く上で有利となりやすい2つの資格を紹介します。
(1)診療報酬請求事務能力認定試験[医科] |
---|
医療費の請求を行う診療報酬請求事務の知識と技能レベルを評価、認定します。合格率約30%の最難関資格の1つです。 |
(2)医療秘書技能検定 |
---|
医療秘書教育全国協議会が主催する民間資格であり、レセプト作成など医療事務スタッフに必要な技能を有することを証明する検定です。 |
その他、「電子カルテ実技検定」や「医事コンピュータ技能検定」も有利に働く資格です。医療事務は無資格・未経験でも働けますが、資格を取得することで「自信を持って就業できる」「就職先・転職先の幅が広がる」といったメリットがあります。医療事務に関係する資格取得も視野に入れながら、医療事務としての就職・転職を目指しましょう。